ウエルシア薬局(水野秀晴社長)は、患者の嚥下状態を確認し調剤等に役立てることを目的に、独自の認定資格「嚥下フィジカルアセスメント認定薬剤師」の取得を推奨している。在宅現場で活用し、残薬の解消や医師・看護師との連携強化を図り、チーム医療における薬剤師の存在価値を高める。今年は新たに6人が資格を取得し、認定薬剤師は12人となった。当面の目標は認定薬剤師100人の育成である。

誤嚥性肺炎のリスク低減を
フィジカルアセスメントは、問診・打診・視診・触診などを通し患者の身体に触れ、症状の把握や異常を早期発見する行為である。在宅医療を支える手法として、医療従事者が注目している。
医療行為が出来ない薬剤師も、血圧測定や軟膏塗布、湿布貼付、点眼、坐剤挿肛などのフィジカルアセスメントが認められているが、頚部聴診による嚥下測定をおこなう例は少ないという。
高齢化により嚥下障害が疑われる患者が増加しており、これが高齢者の死亡率№1の誤嚥性肺炎のリスクを高めている。また在宅において、飲み忘れのほか嚥下困難を理由に残薬が増えているケースも見られる。
「嚥下フィジカルアセスメント認定薬剤師」は、高齢者向けの調剤等に役立てる狙いで、同社採用教育部広報担当部長で歯科医師の大西孝宣氏が考案し、昨年に認定資格制度としてスタートした。
大西部長は、「グループの講演で、薬剤師に『自分が調剤した薬を患者が飲む姿を目前で見たことがあるか』と聞いてきたが、『ある』と答えたのは1207人中1人だった。私が『それは問題だ』と指摘すると、多くの薬剤師が賛同した。また薬剤師の関心が高い在宅調剤も、現実には薬を(玄関まで)届けるだけと誤解している訪問先もあり、嚥下フィジカルアセスメントが、玄関内に一歩踏み出すためのスキルになると考えた」という。
認定のプロセスは、集合研修、施設内研修の後、医師と1対1の口頭試験で合否を判定する。施設内研修は担当歯科医の訪問診療に同行し、聴診器で対象者の嚥下音を正確に聞き取る訓練をする。
現場で増える「飲みにくい」の声
資格取得者は昨年に6人を輩出した後、このほど新たに6人が加わり計12人となった。6月7日、同社薬剤師の全体集合研修の中で、新規6人への認定証交付式がおこなわれた。当日は4人が参加し、池野隆光会長から認定証を手渡された。
4人に資格取得の動機を聞くと、「在宅の処方箋を応需していたが、投薬の現場経験がなく、実際に患者と触れ合う機会を求め参加した」(舩木氏)。「嚥下困難者が増加している実態を現場で理解する必要があると感じた」(山口氏)。「投薬現場で『飲んでいない』『飲みにくい』という患者の声が増えており、この経験が今後に活かせると考えた」(青木氏)。「在宅の現場で飲み残された大量の薬を見て、残薬の解消に役立つスキルを身につけようと思った」(勝倉氏)と、各々に志の高さが感じられた。
資格取得の効果について大西部長は、「むせずに食事が出来れば大丈夫というのは誤りで、むしろ『むせない誤嚥』は少なくない。現場での経験を通じ、こうした正しい認識を共有することが大事な作業だ。また先輩資格者から、嚥下障害を医師に進言して緊急対応を実現し、チーム医療の大切さを学んだとの報告もある」という。
日刊ドラッグストア2015年6月18日号より抜粋