じものの日 漁協認定「プライドフィッシュ」を各地で展開
イオンリテール(岡崎双一社長)は、地域に密着したGMSの実現に向け、地域カンパニーへの権限移譲を進めてきた。下期も各地のバイヤーを増員し、地元商品の充実に取り組んでいる。その成果をアピールする機会として、毎月15日を「じものの日」とする販促企画を14年10月から継続している。その一環で、今年11月から全国のJF(漁業協同組合)グループが推奨する旬の生魚「プライドフィッシュ」の取り扱いを本州・四国の約350店で開始した。今後も地域カンパニーごとに各地の漁協と連携する同企画を全国一斉に展開していく。

プライドフィッシュは、漁師が太鼓判を押す美味しい魚をブランド化したもので、各地の漁協が季節ごとに最大3魚種を選定する。14年から本格化した取り組みで、現在130種類余りが登録されている。このプロジェクトでは、登録魚種の認知向上と消費の拡大を目指している。イオンとの取り組み以前、小売チャネルでの展開はごく限られた店舗にとどまっていた。
イオンは、以前から各地の漁協との関係を深めてきた。08年にスタートしたJFしまねとの一艘買いによる直接取引は、対象店舗を拡大して現在も継続している。漁業への理解を深めるため、西日本の水産バイヤーはJFによるセミナーを受講し、漁船に同乗する体験をする。一方、漁協関係者を店舗に招き、実際の売り方や顧客の反応を確認してもらう機会も定期的に設けている。プライドフィッシュの全国展開は、漁協との連携を積み重ねてきた実績が土台となっている。
ファストとスローの両軸で魚需要の底上げ目指す

11月15日に実施した最初の販売では、1店舗あたり1〜2魚種を扱い、大規模な売場づくりで訴求した。
食品商品企画本部水産企画部の松本金蔵部長は、「神奈川では高級ブランドとして知られる小柴のアナゴを初めて取り扱った。広島では銀太刀魚をこれまでにないスケールで展開した。こうした取り組みを全国一斉に行ったが、内容は一律ではなく、地域色が明確に出せた」という。
地域によってどんな魚を食べるかの違いは大きく、呼び名が変わる魚種もある。プライドフィッシュそのものが地域と旬にフォーカスしているため、必然的に地元密着のMDになる。
プライドフィッシュの仕入は、各地の漁協との連携のもとで行われる。センター直送や市場を通すものなど、方法は個々のケースで変わってくる。魚種によっては月に1度の「じものの日」以外にも取り扱っている。
「取り組みの大枠は本部とJF全漁連で取り決めるが、店頭をつくるには地域ごとにバイヤーと漁協が連携しなければならない。個々に商談を進めて各地の売場を実現した。プライドフッシュの取り組みを通じ、カンパニーごとに漁協との関係を深めている。このような地域ごとの取り組みを、全国一斉にやれたことに意味がある。個店限定のパフォーマンスではなく、チェーンとして継続して取り組むことで、プライドフィッシュの浸透にもつながる」(松本部長)
魚の需要喚起では、生魚の美味しさを追求するJFのプライドフィッシュのような取り組みがある一方、水産庁が認定するファストフィッシュのように、簡便性をアピールするものもある。GMSの水産売場では、素材の価値、時短の価値の両軸とも必要になる。
松本部長は、「ファストフィッシュの簡便性に対し、プライドフィッシュはスローライフの価値を持っている。ファストフィッシュは若年層の需要喚起につながるが、素材そのものの美味しさを伝えるには別の取り組みが必要だ。魚の需要を底上げするには、ファストとスローのどちらも欠かせない。丸魚は敬遠されがちとはいえ、何でも加工度を上げればいいというものではない。手づくりの料理を楽しみたいというニーズがあり、男性でも趣味として料理をされる方が増えている。そういうお客さまは素材の質や鮮度にこだわる。よい素材を見てワクワクすることも、魚の楽しみ方だ」と語る。
街の魚屋の機能をGMSが継承

ナショナルチェーンのイメージ刷新へ
地域カンパニーへの権限移譲を進めるなか、下期も各地のバイヤーを増員した。南関東カンパニーの場合、9月に20名ほど増員し80名を超える体制になった。青果や鮮魚はより深く地域市場に入り込み、精肉部門は店頭の指導体制を強化している。
一方、本部は需要創造に向けた方針を明確にし、各カンパニーには方針に沿った独自の取り組みを徹底させる。プライドフィッシュの展開は、本部と地域カンパニーの新たな役割分担のモデルケースでもある。「以前なら地場仕入をこれほど強化することは考えられなかった。これまで品揃えできていなかった商品をやっていこうという意欲が高まっている。鮮魚の調達は、毎日の水揚げ状況を迅速に把握することから始まる。市場をきめ細かくカバーすることは重要だが、ただ張り付いているだけでは仕入はできない」(同部長)
調達した鮮魚を、顧客のニーズに即したかたちで提供できるかどうかは売場スタッフの技術にかかっている。イオンは厚生労働省の認定を受けた鮮魚士の社内資格制度により、技術レベルとモチベーションのアップに取り組んでいる。
松本部長は、売場の技術レベルは企業のイメージを左右するくらい重要という。「お造りひとつをとっても、技術レベルは魚の価値を左右する。丸魚一匹を、お客さまが求める鮮度とさまざまな加工度で提供できることが、イオンの品位を高める。魚離れの要因の1つとして、売り手の論理で売りやすい商品しか置いてこなかった部分もある。人員不足をその理由としてきたわけだが、そこを変えない限り、魚消費のトレンドは変わらない。街の魚屋が減少し、チェーンストアで鮮魚を買う比率は7割を超えている。かつて魚屋が消費者に提供していた価値を継承することが、我々の務めと考えている。現場の技術は重要であり、そのために体系化された教育システムのもと、資格取得が賃金アップにつながる仕組みを整えている」
地域色のある品揃えと確かな技術で顧客の支持を広げ、鮮魚部門の活性化を進める。成功事例の1つが朝獲れ鮮魚の展開で、神奈川エリアで販売した江ノ島の生シラスや、千葉で行った銚子のカツオなどは瞬く間に売り切れた。
「かつて、年末にアワビを2万個調達するように言われ、胃が痛くなった経験がある。やるにはやったが、コスト的にも相当な無理があった。本部一括だと、どうしても大産地から調達せざるを得ない。そのうえ販売エリアが産地から遠過ぎると、お客さまから見て違和感につながるかもしれない。もっと近くに産地がある場合が多いからだ。カンパニー主体だからこそ見えてくる産地があり、それを活かすことが重要だ。朝獲れのように鮮度を追求すれば、必然的に地域密着になる」(同)
地元商品の強化はGMSのサプライチェーン改革であり、顧客から見たナショナルチェーンのイメージ改革でもある。
日刊流通ジャーナル2015年12月4日号より