セブン&アイ・ホールディングスの鈴木敏文会長兼CEOは7日、セブン-イレブン・ジャパンの社長人事が取締役会で否決されたことを受け、退任することを表明した。グループのすべての役職から退く見通しだ。この数年、グループの最高益の更新に寄与してきたセブン-イレブンの社長交代が指名・報酬委員会および取締役会で否決され、混乱を招いた責任をとる形となった。伊藤雅俊名誉会長の意向に左右されたことがうかがえる。資本と経営の分離、コーポレートガバナンスの問題がクローズアップされた。

決算発表が予定されていた7日、急きょ、鈴木会長が出席することになった。同日の取締役会で、会社側が提出したセブン-イレブンの社長人事が否決され、記者会見で退任の意向を発表することを決意したという。
業績が好調な中での社長交代は7年の間、新しい改革が出てこなかったことが要因だと語った。「私は7年前、若い井阪氏を育てる目的で社長に任命した。古屋副社長にサポートしてもらうことを引き受けてもらった。(業績は好調だったが)COOの役割を果たしたかというと疑問がある。新しい改革はなく、私が常々、考えたことだけだった。7年やったので十分ではないかということを内示したが、受け入れられなかった」
会見に同席した村田紀敏社長、伊藤名誉会長と親交が深い後藤光男氏、佐藤信武氏の両顧問も話し合い、説得に当たったが不調に終わった。
昨年、株主になった外資ファンドの指摘もあり、ガバナンスを強化する目的で指名・報酬委員会を設立した。鈴木会長、村田社長と2人の社外取締役の4人がメンバーである。今回の件を委員会で諮り、5時間、討議した。それに際して、村田社長が創業者で約10%の株式をもつ伊藤名誉会長に了承を得ようとした。
「ひっぱられるわけではないが、伊藤家の判断が重要になり、伊藤名誉会長に承諾をもらいにいくことを決意した。実は以前、私に重要な人事案がきたら知らせて欲しいといわれていた。また以前から経営についてはすべて鈴木会長に任せているということも聞かされていたので、今回の件はまさに経営の問題であり、承認いただけると思っていた。だが、はっきり断られ驚いた。いまでもなぜかという思いをもっている」(村田社長)
役員会は賛成7票で否決 指名・報酬委員会で十分に討議
鈴木会長が退任しても、経営面で当面の問題はないという。
「セブン-イレブンはこの数年、最高益を続けている。加盟店のオーナーからCEOをやりながらCOOの仕事も続けてきましたねとずっとわれてきた。笑いながら、1つの会社だから構わないといってきたが、いつまでも実質的にCOOを兼務する状態であってはならない。そして人を育てないといけない。今年度も最高益を出せる見通しがついている。悪い時に逃げ出すわけではない。役員みんなに集まってもらい退任することを話すと、みんなびっくりして引きとめてくれた。おかげさまで最高益を続けており、ひとつの重荷といわれているイトーヨーカ堂も何とか、見通しが立てられるような状態に向かいつつある」(鈴木会長)
15人の役員会では賛成7、反対6、白票2で過半の8に達せず、否決となった。これによって再度、取締役会を開き、役員人事を決議することにことになる。「会社側での提案が否決されたもので、井阪氏が新任されたわけではない。これから役員会で決議するが、後任を指名する考えはない。私の息子(鈴木康弘取締役執行役員CIO)が後任という話しを社内で聞いて、仰天した。本人はセブン-イレブンに直接タッチしたわけでもないし、技術屋であり、そんなことを考えたことはない。だが、誠しやかにいわれるのは私の不徳のいたすところである」(同)
指名・報酬委員会で否決されたものが、取締役会の議題となったことがガバナンス上の問題と指摘されるが、「委員会の社外取締役お二人は鈴木会長の経営に対する姿勢、方針、業績について、十分、理解された。ただ、業績が好調な企業のトップを交代させることの結論に達しなかったということで、委員会の中では十分な話し合いがなされたと思う」(村田社長)としている。
また鈴木会長は資本と経営の分離の重要性を強調している。
「私はイトーヨーカ堂に入社して15年人事を担当し、自分の案が否定されたことはなかった。ましてや資本と経営の分離は社内で強く、いい続けてきた問題だ。いま伊藤家の資本は約10%で、そのこと自体は経営に大きく影響するものではないが、われわれのFCビジネスということを考えると、その辺をきちんとしなければならない。その見本をつくったことが大きな使命と思っている。周囲から反対されてコンビニをつくったという使命から考えても、資本と経営の分離をきちんとしておくことが大変、重要だという思いがある。これから、いろいろな株主が入ってきて、経営に対して口を挟まれるようなことが十分に推測される」
また伊藤名誉会長との関係について、良好であったものが急きょ、変わったと語っている。「いままで、提案してきたことに対し拒否されたことは1回もない」。今回の件については、「世代が変わったということだ」との言及にとどめた。
日刊流通ジャーナル2016年4月11日号より抜粋