
市場発展の突破口は、買い手を増やすことから
日本のオーガニック食品市場は、欧米の5%に満たない規模と推計される。生産体制が整っておらず、品揃え・流通量とも限られている。そのオーガニック食品を、イオンは戦略商品のひとつと位置づける。まずは買い手を増やすことが市場発展の基礎になるとし、身近で購入できる場を増やし、品揃えを広げることで選ぶ楽しさを提供し、既に構築した大規模なサプライチェーンに乗せることで手頃な価格の実現を目指す。最初の一手として2014年秋、PBのオーガニック関連品を2倍の120品に拡大し、取り扱いをグループ約4000店に広げた。

欧米では食品分野におけるライフスタイル商品のひとつとして、オーガニック食品への関心が高い。大量消費社会で食品も効率的な生産を追求してきた結果、健康への懸念や環境負荷が問題とされるようになった。生産方法の見直しを求める消費者の選択によって、オーガニック市場は拡大している。
日本でも注目はされているものの、市場規模は1300億円ほどと推計される。3兆円を超える米国やEUとは比較にならないほど小さい。
オーガニック農業を行う国内の農地面積は、EU域内の約1000分の1、農地全体に占める割合は7分の1以下にとどまる(JETRO「欧州におけるオーガニック食品市場の動向 2014年3月」を参照)。流通する商品は野菜などの農産物が中心で、オーガニック原材料を使った加工食品は、製造も流通経路も限られている。欧米では一般的なチェーンストアでも加工食品を含めたコーナー展開が一般的で、価格競争の対象にさえなるのとは対照的だ。
EUでは1990年代から政策的にオーガニック食品の市場醸成に取り組んできた経緯がある。日本のマーケット環境は未整備で、関心のある消費者も、ニーズの潜在性を感じている生産者も流通関係者も、取り掛かりのきっかけを見出しづらい状況にある。
イオンは、そのオーガニック食品市場に発展の突破口を切り開こうとしている。最初の戦略的な課題は、ユーザーの拡大だ。
グループ機能会社・イオントップバリュの仲谷正員常務取締役は、「売れるかどうか分からないものを生産者は手がけられない。ましてオーガニック食品は、農産物の生産段階でも加工食品の製造工程でも余計に手間がかかる。ただ、ビジネスになるのであれば、工程が辛くても取り組んでもらえる。まずは買い手を、マーケットをつくる。これは小売でなければできないことだ」という。

買い場・品揃え・値頃感 グループの総合力で提供
オーガニック食品のユーザーを増やすうえで、克服しなければならない課題は買う場所が身近にない・品揃えがない・高いの3要素だ。イオンは、取扱店を増やし、品数を増やし、値頃を実現することで対処する。
2014年10月にPB「トップバリュ グリーンアイ」のオーガニックシリーズに新商品58品を投入し、品揃えを120品に倍増させた。これをグループ約4000店で展開し、需要が見込める店舗ではコーナー化してアピールした。
「オーガニック食品を求めるお客さまは、食生活における多くのことをオーガニックだけで完結させたいと望まれるはずだ。カテゴリー別に単品を挿し込むよりも、オーガニックだけを集合させた方が認知されやすく、選ぶ楽しさが増す」(仲谷常務)
価格は同等のオーガニック食品に比べ、3~5割ほど抑える。
「オーガニック食品が高いのは、生産コストそのものに加え、包装資材や輸送コストなどが上乗せされるからだ。当社と専門業者の違いは、オーガニック以外のトップバリュでグローバル・サプライチェーンを構築しているところだ。規模の大きい一般の食品と同じ物流に乗せることで、間接的なコストを大幅に削減できる」(同常務)

輸入で品揃えを確保、市場を育成し国内の生産環境を整える
アイテム数を一気に2倍にするにあたり、農林水産省が定める「認定輸入業者」の資格を活かした。日本の有機JAS認証と同等性が認められた海外のオーガニック商品に関し、現地の製造段階で有機JASマークを付けられる。以前は海外の生産者が認定を受けるか、輸入してから改めてマークを付ける必要があった。
新たに追加した58品のうち、11品が認定輸入業者の仕組みを活用している。さらに有機JASが対象としていないカテゴリーでは、米国やEUのオーガニック認証を受けて開発にあたる。
イオントップバリュ食品・H&BC商品本部で規格基準・仕様管理チームを担当する植原千之マネージャーは、オーガニック食品の幅を広げる取り掛かりとして、輸入加工食品の重要性を指摘する。
「国内生産の仕組みが十分でない現状では、海外商品を活用して品揃えを広げるしかない。マーケットを活性化した次のステップで国内生産を強化したい。その際には国内産のオーガニック原材料を活用できるよう、製造委託先・原材料供給先の両輪で取り組みを進めたい」(植原マネージャー)

商品化のハードルはオーガニック認証だけではない。トップバリュとして販売するためにも、製造工程の管理を行う必要がある。海外もオーガニック関連のサプライヤーは中小企業が少なくないため、仕様書の要求水準を満たす苦労は多い。
「日本の要求水準を理解していただくことがそもそも大変で、現地での確認や書類の精査に手間がかかる。候補となるオーガニック食品は多くても、実際に商品化に至るまでにかなり時間を要する。また、商品の表記に問題がないかの確認も念入りに行わなければならない。1品ごとに石橋を叩く慎重さで進めている」(同マネージャー)
オーガニック食品の普及は、企業理念に照らした取り組み
イオンが「グリーンアイ」の名称で健康や環境配慮型のPB開発を始めたのは1993年で、シリーズの名称としては2000年に誕生した「トップバリュ」よりも古い。同年に有機JASマークの1号認証のひとつとして有機農産物・冷凍食品を登録できたのも、それまでの取り組みを踏まえてのことだ。
仲谷常務は、オーガニック食品に代表されるグリーンアイの開発には、グループの価値観である人の健康、地球の健康、健康な社会の追求が集約されていると語る。
「オーガニックの市場性や収益性を問題にする以前に、企業の姿勢として1993年から取り組みを続けている。ここに来て品揃えを拡大したのは、法律の改正でやれることが増えたからだ。人・地球・社会それぞれの健全性を保つための取り組みでは、他にもフェアトレード商品を先導してきた。どちらもマーケットとしては発展過程だが、企業理念に照らしてやるべき価値があると判断したことは、やり続けている」
週刊流通ジャーナル2014年11月24日号より