
五味商店
こだわり商品のネットワークを全国に広げる
五味商店(寺谷健治社長)は、「こだわり商品」をテーマに全国各地の中小メーカーとネットワークを構築している。伝統的な発酵・醸造食品を次世代に継承することをビジョンとし、スーパーマーケット・トレードショーなどの展示会では16年にわたり「こだわり商品」をテーマとした情報発信を継続してきた。素材を吟味し、伝統的な製法にこだわるほど効率的な生産は難しく、そのコストは価格に反映される。売れ筋のマス商品にはなりにくいのが一般的だ。しかし寺谷社長は、「卸・流通に行政も含め、チームの力を合わせればヒット商品は生まれる」という。

五味商店は、発酵・醸造食品をはじめ全国各地のメーカーが伝統的な製法でつくる食品を「こだわり商品」として提案してきた。 「こだわり商品という言葉が一般化し、価値を訴求できる商品の重要性が語られるようになるなど、当初に比べ『こだわり』の流れは大きなものとなった。本質的な価値を求める消費者が増え、豊かな食生活とは何かを根本的に考える人も増えている」(寺谷社長)
手間を惜しまず添加物を使用しないといった製法は価格上昇の要因になる。そのため伝統的な製法による商品の多くは高価格帯であり、店頭での回転は鈍くなる。
「効率的につくられた商品か、価格は高くても伝統的な製法を守る商品を選ぶのか、店頭での選択肢を残したい。現状は選択肢すらほとんどない。いま取り組まないと、将来の選択肢はさらになくなる」(同社長)
伝統的な製法でつくられた食品を広げる取り組みは、地域産業の活性化にもつながる。地元の原料生産者や加工メーカーの流通経路を広げるべく、地方自治体もバックアップを強化している。
「首都圏と地方の格差は、何もしなければ大きくなる一方だ。各地の行政は地域商品を首都圏のマーケットに売り込もうと、地元メーカーのバックアップに力を入れている。行政の協力で得た情報がきっかけとなり、原料生産者と加工メーカーの新たな関係づくりが実現することもある」(寺谷社長)

ヒット商品はチーム力で生まれる
地方の中小メーカーが規模の大きな小売チェーンとの取り引きを実現するにはさまざまなハードルがある。品質管理の基準を満たせず、取り引きに至らないケースも少なくない。ただ、しっかりとした取り組みができれば、ヒット商品につながることも多い。
「ヒット商品になるかどうかは、商品力よりも営業力の差だ。展示会に出展したり、営業に回ったり、メーカーと卸が二人三脚で取り組むことが重要だ。前述のように行政のバックアップも力になるし、小売との協力も不可欠だ。チーム力を発揮することで、年商1000万円を超える商品は年に幾つも生まれる(同)
伝統的な製法に基づく価値が再評価されているものの、こだわり商品の市場規模は現時点では限られている。さまざまな工夫でマーケットを育成しなければならない。
寺谷社長は、小売店が志をもって取り組む売場が各地域に広がることを期待する。
「小売側からみれば、こうした売場は台頭するネットショッピングに対し、リアル店舗の買物体験を高める方法のひとつになると思う。中小メーカーの商品はナショナルチェーンよりも、地域密着のスーパーだからこそ取り扱える商品が多い。食の専門性と地域密着を追求するスーパーにとっては重要な商材になると考える。
伝統的な製法でつくる地方の中小メーカーの商品は、大手メーカーと販売数量を競うようなものではなく、売場で共存を目指すべきものだ。小売が生活者の選択肢として売場を残していくことは大切だが、中小メーカーも家業的なモノづくりの発想で完結していては不十分であり、顧客創造を追求する事業体として、組織力を高める必要がある。行政からの支援もモノをつくったら終わりになりがちだが、いかに中小の組織力を高めるかという観点こそが重要だ」(寺谷社長)

顧客の食生活に、責任を負う
これまで取り扱いのないこだわり商品を売場で展開するには、商品の入れ替えが必要になる。品揃えの改廃は常に行っている業務とはいえ、顧客ニーズの変化に合わせて適切なスピードで実践できているチェーンは少ない。育成プロセスが不可欠なこだわり商品の場合、導入を決断するまでのハードルは、より高くなる。こだわり消費、付加価値商品がクローズアップされる昨今においても、チェーンの信念や商売の方向性が確立していない限り、取り扱いを継続するのは難しい。
「顧客ニーズを先取りしようと、自ら商品を探しに行く姿勢があるか、売場を変える意欲があるかどうかが差をつくる。食品を扱う小売企業には、顧客の食生活に対して社会的責任があると思う。顧客にどういった食生活を提供するか、チェーンとして確かな考えを持つことが大切だと思う」(寺谷社長))
日刊流通ジャーナル2015年2月19日号より