良品計画 諸国良品
自社ネットストア内の新コーナー、産地直送システムで運営

良品計画は、今年3月から自社のネットストア内に産地直送コーナー「諸国良品」をスタートさせた。小規模生産のため通常の流通経路にはほとんど乗ることのない、各地域の食品・雑貨などを扱う。この仕組みづくりが目指すのは、単純な収益貢献ではない。地域生産者の支援だけが動機でもない。これら商品のバックストーリーを知らせることで、無印良品の事業テーマである「感じ良いくらし」への共感を広げていく。
諸国良品サイトは現在、約40社・200アイテムを取り扱う。家内生産的につくられた商品や、収穫期が限られた生鮮品も多いため、品揃えは時期によって異なる。ウェブサイトの編集や決済システムは良品計画が担当し、購入者への商品発送は生産者から直送で行う。既に事業化している「Flower MUJI」の仕組みを応用し、生鮮品を含む限られた量の商品を希望者に届けている。
無印良品ブランドの商品とは異なる基準で仕様書を作成し、取扱商品は生産者との協議で選定する。生産者が既に何らかのかたちで販売している商品に新たな販路を提供するもので、MUJIオリジナルの商品ではない。
3月のスタート当初は、直送システムを安定的に運営するために受注期間を毎月10日間に限定していた。5月からは常時購入できるように変更し、購入希望者の利便性を高めている。
はじまりはMUJIキャラバン 全国の地域商品を探索する

諸国良品の運営は、宣伝販促室が行う。もとは2012年に行った全国縦断のウェブ企画「MUJIキャラバン」から始まっている。ライターが1年がかりで47都道府県を訪れ、各地の日常生活を体験しながら地域に根差した食品・雑貨などをブログで報告する取り組みだった。
企画を担当した宣伝販促課の間野弘之課長代行は、MUJIキャラバンは1年がかりの大型プロジェクトでありながら、販売につなげる目的でスタートしたものではないという。
「モノの情報取得も購入もボーダーレスに可能な現代だからこそ、特定地域にしかなく購入も難しい商品の価値は高まるだろうと考えた。工業化された製品にはない手仕事の魅力や、その商品を支える文化的な背景、肌触りや温度感といった要素が重要になる。そうした商品が作られ、使用されている現場を巡ることで、我々が目指す『感じ良いくらし』に取り入れられる要素があるのではないか。そんな思いで始めた。最初は取材した生産者の紹介で、次の取材先を見つけるような進め方だった。そうした口コミと、ブログやツイッターを通じて寄せられる情報により、徐々に情報網が広がっていった」
1年間の旅の成果は、ブログだけでなく有楽町店(東京都千代田区)の企画展示として紹介し、無印良品の顧客に報告した。そこでの反響が大きく、商品への購入希望が多かったことから、ネット通販のプロジェクトに発展した。
「金井政明会長(当時社長)から販売サイトの立ち上げを指示され、宣伝販促室がそのままプロジェクトを担当することになった。商品を実際に取り扱うことのない部署なので、仕様書や発注書のつくり方など商品部に教えてもらいながら仕組みを整えていった。2013年にFound MUJI marketとしてスタートした当初は5アイテムくらいで、徐々に拡大していった」(間野課長代行)
そのFound MUJI marketを今年3月、諸国良品にリニューアルした。より明確に旬や地域性を感じられるようにするため、食品を中心としたサイト構成を目指している。
バックストーリーありきの商品
こだわり商品や上質品の提案では、その商品を支えるバックストーリーの訴求が重要だ。とはいえ販売が目的である以上、サイトでは商品が前面に立つのが一般的だ。ところが諸国良品の場合、商品画像が登場するのは、テキストと写真でバックストーリーを語り終えた後だ。
間野課長代行は、諸国良品の購入は、生産者への共感から始まるという。
「諸国良品の場合、各地域に固有の環境があって、そこで暮らす人がいて、その人たちの営みから生まれた商品を知って、購入するかどうかを決めていただく流れが自然だと思う。もちろん、商品そのものから興味を持つ流れもあるので、サイトのトップには『商品一覧』の項目も用意している」
「感じ良いくらし」の一部
ネット通販と生産者からの直送というシステムにより、地域の生産者と全国の消費者をマッチングさせるプラットフォームとしての機能は整いつつある。当面の課題は、事業の長期的な継続に向け同サイトを黒字化することだ。
「MUJIネットメンバーの顧客基盤を活かし、情報発信に取り組んでいく。取材による丁寧な商品紹介は当社ならではの姿勢であり、これら商品と我々のお客さまとの親和性は高いと思われる。地域に根差した商品への関心を高めることは、普段の買物にも新たな視点を生むきっかけになるだろう。『感じ良いくらし』を提案する一環と考えている」(同)
諸国良品の取扱商品は、各地の基幹店舗でもコーナー化している。各店の周辺地域で生産された商品だけを扱い、地元の人や観光客に地場商品としてアピールする。
日刊流通ジャーナル2016年1月20日号より抜粋