
ウイズネットは埼玉を中心に1都2県で、在宅から入居施設までの介護サービスをワンストップで提供している。ドラッグストアとは施設への調剤での連携や介護相談窓口の併設等をおこなっている。今年4月、ローソン店舗に介護相談窓口を併設する新たな取り組みをスタートした。このほど髙橋行憲社長に、同社の事業環境と将来の介護の在り方についてうかがった。以下は髙橋社長との一問一答の要旨である。
43歳で再度の起業を決断
――御社の成り立ちと現在の事業内容を教えてください。
髙橋社長 実家がお寺で私も僧侶の資格を持つが、大学卒業後は起業の道を選んだ。しかし1977年に設立した製造業がオイルショックの影響で破たんしたため、損害保険会社に就職し17年ほどサラリーマンとして過ごした。転機となったのは98年、43歳の時だった。子供も巣立ち、改めて今後の人生設計を考えた。「このままでいいのか」と自問の末、今一度起業することを決心した。
その頃注目された産業は福祉、環境そしてITだった。文系だったのでITを選択肢から除き、福祉と環境に的を絞った。折しも介護保険制度と循環型社会形成推進基本法(リサイクル関連法案)の成立が目前に迫っていた。リサイクル事業は産廃業者が先行参入していたが、介護事業者はまだ少なかった。消去法的に福祉の道を選択し、98年1月にウイズネットを設立した。
99年10月にヘルパーステーション1号店、2000年1月に居宅介護支援事業所1号店を開設した後、同年10月にグループホーム1号店を開設して事業を本格的にスタートした。現在はグループホームを核に介護付有料老人ホーム、デイサービスなどの施設運営と、それらに関連するサービスを幅広く手掛けている。
――事業を多角化していった理由は何ですか。
髙橋社長 一言でいえば「社会のニーズがそうさせた」ということだ。机上の計画ありきではなく、必要に応じ走りながら事業を構築してきた。ただ唯一、手を付けなかったのが「訪問入浴」だ。我々の対象は社会復帰できる方でなく、看取りを必要とする方である。高齢者を家の中に閉じ込めることに違和感もあり、最後の瞬間まで気持ち良く過ごしてもらうこと、そのコミュニケーションの場を提供することを事業方針としてきた。
――グループホームを核とした理由は。
髙橋社長 脱サラしたばかりの人間が従業員を集めるのは困難で、限られた従業員数で効率的かつ効果的に事業を遂行するには、施設つまりグループホームが最良だった。なお2000年に開設したグループホーム1号店は、介護保険を適用した民間で初の施設だったと思う。
地域密着度でコンビニに軍配

――居宅介護支援事業所を併設したローソンの1号店を4月に開設しましたが、同様の取り組みをドラッグストア(Drug.S)とおこなう選択肢はなかったのですか。
髙橋社長 私が最初に考えたのはDrug.Sとの協業だ。かつてウエルシアHDに薬局事業の譲渡を提案した際、故・鈴木孝之名誉会長と出会い、互いの事業の接点を真摯に話し合ってきた。現在も施設への調剤は、神奈川県はCFSコーポレーション、埼玉県はウエルシアHDに委託している。一部居宅介護支援事業所の併設でも連携しているが、両社とも介護の専従者がおらず、協業のスピードが上がらなかった。
個人的に、今後Drug.Sが自社で1から介護を展開することは難しいと考える。介護の領域は我々専門家に任せ、調剤などの本業で収益を上げるべきではないか。もし本気で介護に参入するなら時間を金で買い、スピード感をもって事業を構築する必要がある。
――Drug.Sにないコンビニの優位性とは。
髙橋社長 最近はDrug.Sが食品を、コンビニがOTCを販売し、業態の垣根が希薄化している。ただコンビニは生活者の足元に店舗があり、24時間営業している。さらには高品質の弁当・デザート、ファストフードなど、Drug.Sに真似できない商材もある。それが、地域密着度の差となって表れている。
国のすすめる地域包括ケアシステムは、内容をもっと議論する必要はあるが、増加する高齢者を地域の中で見守っていくという点で正しい方向に向いている。その窓口となる居宅介護支援事業をどこに置くべきかを考えた時に、高齢者の最小行動範囲の中にあるコンビニこそ、ふさわしい業態だと考えた。
日刊ドラッグストア2015年6月16日号より