
ビール大手の商品戦略で顕著になっているのが、定番NBの積極的なエクステンションだ。限定醸造品や派生商品の投入が増え、定番ブランドはさまざまな顔を見せるようになった。ビール最大のブランド「スーパードライ」は、12年発売の「ドライブラック」以降、エクステンションの流れをリードしてきた。14年は「ドライプレミアム」を通年商品化し、今年は「スーパードライ」本体でも桜色の限定パッケージや限定醸造品を発売した。これらエクステンション戦略で確実な成果を得る一方、今後の展望にはこれまでのエクステンションを前提にした新たな課題も存在する。常に「挑戦」を掲げてきたブランドは、今も新たな挑戦に取り組んでいる。
広がる「ドライ」の世界

今年5月までの実績は、「スーパードライ」全体で3.3%減(数量ベース)だった。前年3月までの仮需が影響しており、13年対比ではプラスで推移している。エクステンション商品で話題を喚起したことが、下支えの要因になっている。
2月にスーパードライ本体の春限定品として投入した「スペシャルパッケージ」は、缶全体をピンク色にする桜デザインで店頭の印象を高めた。3月にはブランドの味覚特性である辛口を強調した「エクストラシャープ」を限定醸造で発売している。
マーケティング本部マーケティング第一部の松葉晴彦次長は、2つの限定品による話題喚起が、本体への還流を生みつつあるとしている。
「桜デザイン缶は、女性と40代男性の購入比率の高さに特徴があった。女性は、ピンク色の見た目からくる購入意向が顕著で、40代男性は屋外での飲用シーンに活用していただいた。『エクストラシャープ』は30〜40代男性の購入が多く、本体のボリュームゾーンに比べれば若い層を獲得できた。これまで取り切れていなかった客層に、ブランドへの関心をつくるきっかけになったと考えている。限定品から本体へという流れがどれほどのものになっていくかは、さらに検証する必要がある」(松葉次長)
本体の揺るぎない価値が基本 派生品で流入よび込む

スーパードライ本体で発売した前述のエクステンション商品に加え、ドライプレミアムでも2月に「煎りたてコクのプレミアム」、5月に「贅沢香り仕込み」といった限定品を投入した。また、スーパードライに限らず、今年は大手各社のビールブランドからさまざまな限定品が発売されている。
ビールの嗜好が多様化するなか、ブランドの新たな魅力を提案する限定品には重要な役割がある。ただ、店頭ではエクステンション商品が入れ代わり立ち代わりすることで、本体と連動したブランド訴求の効果が薄まりつつあるようだ。本体は定番棚、限定品はプロモーションコーナーだけと、売場が連動しないケースも増えている。ユーザーの刺激策として限定品を活用しつつ、さらに本体の継続的な魅力アップにつなげることがエクステンション戦略の課題だ。
アサヒビールの場合、通年商品化して2年目のドライプレミアムは、ブランドの確立に向け重要な時期に差し掛かっている。5月単月は限定品の投入などで前年比4割近いプラスとなったが、累計ではまだ4割近いマイナスで推移している。
松葉次長は、ドライプレミアムの確立に向け、プレミアム市場の特性を踏まえたブランディングが必要という。
「ビール類全体からすれば、プレミアム商品の固定ユーザーは少数派だ。多くのユーザーは流動的で、他のブランドを飲みつつ、週末など限られたシーンではプレミアム商品も飲むといった傾向にある。そういった市場で、まずはドライプレミアムのコアなファンを着実に増やしていく。じっくり飲む傾向の他のプレミアムブランドと比べ、ドライプレミアムは食事と一緒に楽しまれる傾向が強い。そうした特性を活かしつつ、スーパードライとの違いもいっそう明確にする必要がある。一方、流動的な市場であるからこそ、限定品によって話題を喚起し続ける必要もある。本体をコアに、限定品でトライアルを獲得し、徐々にユーザー層を厚くしていくのが成長戦略のイメージだ」(同)
強固なユーザー基盤を確立しているスーパードライ本体は、ドライプレミアムを含む多くのエクステンション商品を展開しても、本体に対するコアなファンの支持は揺るがない。ただ、ビール市場が多様化する中で、時代に合わせてスーパードライらしさを調整する必要があるという。これは新しい課題ではなく、四半世紀以上にわたってブランドが続けてきた取り組みである。
松葉次長は、「ビールの価値が多様化することで、ビールそのものや、スタンダードビールの見方がこれまでと違ったものになりつつある。時代が変わるなか、常に変わらないブランドイメージであり続けることがスーパードライのテーマだ。揺るぎないブランド価値を提示しつつ、さらに輝かせるには何をすべきか、そういった観点で取り組んでいる」という。
週刊流通ジャーナル2015年6月22日号より抜粋