
新生「ザ・モルツ」 ビールシェア向上の加速へ
サントリービールは9月8日、スタンダードビールの新商品「ザ・モルツ」を発売する。「うまみ」に重点を置いた中味設計で、30~40代をメインターゲットに設定する。これまでプレミアム市場で売上を伸ばしてきた同社が、このタイミングでスタンダード商品に取り組む理由について、水谷徹社長は「2020年までにビール類市場シェア20%を実現するには、ボリュームの大きいスタンダード市場への挑戦は避けて通れない」と語る。

サントリーのビール事業は、03年の時点でシェア10.4%だった。14年はシェアを15.4%に高めている。この間、売上を牽引したのはプレミアム市場の「ザ・プレミアム・モルツ」と、同社がエコノミー市場と位置づける新ジャンルの「金麦」だった20年のシェア20%に向けた取り組みも、「ザ・プレミアム・モルツ」を旗艦ブランドとする位置づけは変わらないという。
現状の市場規模でシェア20%を実現するには、およそ7600万ケースの販売ボリュームが必要となる。サントリービールの14年実績は、まだ1000万ケースほど届かない。限られた時間で目標を達成するために、新たな核ブランドの育成を目指す。
「当社のブランドポートフォリオにおいて、最大ボリュームであるスタンダードビールにしっかりとした商品がないことは問題だ。これまで積極的なマーケティングをしてこなかったのは、プレミアム市場で優先すべき取り組みが多かったこともある。今年は『マスターズドリーム』を発売し、スーパープレミアム市場の開拓にも着手した。プレミアム市場でさらに伸ばせると確信したうえで、スタンダードへの挑戦を決めた」(水谷社長)
「2杯目もビール」の実現へ UMAMIの定番めざす
スタンダードビールの強化に向け、既存の「ザ・モルツ」を再設計した。水谷社長は、「リニューアルではなく、まったく新しく設計し直した。モルツの名称を採用したのは、プレミアムカテゴリーで培ってきた技術を活かしていることと、プレモルの系譜であることをイメージしていただくためだ」としている。
原材料にダイヤモンド麦芽を使用するなど、「ザ・プレミアム・モルツ」との共通点もあるが、味覚設計は異なる。華やかな香りとコクが特徴のプレモルに対し、新生「ザ・モルツ」は複層的な「うまみ」に主眼を置いた。
ターゲットは、ビールのボリュームゾーンである50〜60代ではなく、30〜40代にフォーカスする。
「価格志向によってビールから発泡酒・新ジャンルへシフトする動きはもう終わっている。出費の多い30〜40代といえども、今もビールにとどまっているユーザーは、ビールへのこだわりがある方たちだ。しかし、プレミアムビールとなると、ご褒美など特別なときに飲むイメージがあり、毎日飲むものではないと思われている。この価格コンシャスは、プレモルではなかなか越えられない壁だ。また、この世代は既存のスタンダードビールを積極的に受け入れているわけでもない。新しいビールの価値を認めてもらえれば、市場は伸びる」(同社長)
初年度は発売から3カ月で200万ケースを計画する。通年では600万ケース、中期目標は1000万ケースと設定する。
水谷社長は、1000万ケースを突破することが定番ブランドの条件という。
「1000万ケースを超える規模になれば、家庭の冷蔵庫に常に入っている状態といえる。計画達成のためには、『2杯目もビール』を実現しなければならない。調査によると、ビール飲用者の7割は、2杯目以降を他の酒類にスイッチしてしまう。2杯、3杯と飲まれるビールとするためにも、うまみが重要と考える。なお、1000万ケースのうちプレモルから流れる数量は最大で2割くらいはあると想定している。その分を引いても、ご褒美ビールとしてプレモルの成長は可能だ」(同)
週刊流通ジャーナル2015年7月6日号より抜粋