
いなげや(成瀬直人社長)はこの数年、惣菜を強化した改装を進め、着実な成長を遂げている。惣菜が業績の底上げに寄与してきたが、今年に入って動きが変わってきたという。生鮮品に回帰する傾向がみられ、改めて本物の味を追求することで、個々の商品の質を高めていく。惣菜に限らず、生鮮、日配、加工食品を含め、トータルで本物を追求する。健康、シニア、レディツー、ローカルの4つのキーワードで商品開発、アソートに取り組む。

昨年4月に惣菜の子会社、クックサンを統合し、店舗運営の一元化が進行している。多くの店長がピークタイムにでき立て、つくり立ての商材を提供することの重要性を認識するようになったという。商品本部副本部長兼グロサリー商品部長の小室勝也執行役員は、惣菜部門の現状について次のように語っている。
「商品力強化が一番の課題である。惣菜はチラシや話題性で売るものではない。本質的な味とか、見栄え、食べ終わった時の満足感などが、すべて受け入れられた時に大量に売れる。価格は、あまり関係ない。当社を含め、最近のSMの動きをみると、都心ほど生鮮が伸び、これに合わせて、高額の調味料が売れる傾向がみられる。これまで惣菜の伸びが突出していたが、今年に入って、ほかの部門と同じ伸び率になった。シニア層で、少しいいものを食べたいから生鮮とこだわりの調味料を買って、自分で調理する傾向がみられる。これから、惣菜も本物の味が求められる。だし、調味料、料理の仕方をもう一度勉強し、本当においしいといわれれるものをつくって、再度、生鮮から惣菜にシフトする方向にもっていかなければならない。ただ、料理をつくる方も年齢的に限界を迎える。いまのアクティブシニアといわれる層がシニアになった時、火を使うことができない。そういう時代にシフトした時、支持される惣菜がないと来店してもらえない。
いままでは、売場を広げ品揃えを増やすことで、お客さまの支持を得てきたが、これからは1品1品の質を高めていかなければならない」
鮮魚 一気通貫の体制で売上伸長
生鮮は青果、精肉が相場高で伸びている側面があるが、鮮魚が突出した伸びをみせているという。生マグロをはじめ、グレードの高い魚種を実験的に取り扱い、着実に浸透していった。また鮮魚部門だけ、販売部の所属だったスーパーバイザーを商品部に移設し、販売計画を立てる側と現場を一気通貫させる体制が売上拡大に寄与している。改装によって、オープンキッチン化しシズル感を演出している店舗は売上構成比がアップしている。全社的に人材が不足しているが、鮮魚はインストア加工を重視し続けてきたことで、スキルの高い人材や技術指導できる人材が存在し、ほかの生鮮部門と比べて環境が恵まれているという。小型店のina21も父の日、母の日などハレの日には、スーパーバイザーが出向いて生の本マグロを販売する。
「こうした取り組みが地域密着の個店主義だと考えている。フォーマット論は重要だが、売上、支持率を落としているのはフォーマットが合わないという認識をもって、品揃えを変えようという動きがないと、お客さまに支持されない」(小室執行役員)
日刊流通ジャーナル2015年7月8日号より抜粋