
マツモトキヨシホールディングスの松本南海雄会長は、春の叙勲で「旭日小授章」を受章した。国内最大手のドラッグストアを育てた経営実績と、日本チェーンドラッグストア協会(JACDS)初代会長として、業界の発展に貢献したことが評価された。受章を記念してこのほど、松本会長に業界の今後と自社の方向性についてインタビューした。
以下は松本南海雄会長との一問一答の要旨である。
——まずは「旭日小授章」の受章おめでとうございます。改めてどのような想いでいらっしゃいますか。
松本会長 名誉欲のなかった父親譲りの私だが、経済産業省やJACDSの寺西・関口両名誉会長からの薦めもあり、受章させて頂いた。当社が96年から始めたTVCM等でドラッグストアの知名度を高めたこと、また99年設立のJACDS会長(〜2005年)としての活動が認められ嬉しく思う。
特に協会活動では、生活者視点の規制緩和を実現し、商業統計への掲載で産業としても認められた。近年は行政のセルフメディケーション推進協議にも協力している。このような政治力のある協会になったことを誇りに思うし、それを支えてくれた宗像守事務総長以下、活動に携わった全ての方々に感謝申し上げる。
——6月10日には、JACDSの第4代会長としてクスリのアオキ会長の青木桂生氏が選ばれました。新会長に期する部分も大きいのではないですか。
松本会長 関口信行前会長と同じく、調剤や医療業界に精通しており、何よりチェーンストアの経営者としての優れた先見性と高い能力が協会の大きな武器になる。会長を支える常任理事・理事に新たな顔が加わったことも心強い。以前は会員でも活動に参加せず、外から批判されることもあったが今は違う。引き続き、業界全体の発展が自社の成長に繋がるという意識を、皆で共有したい。
規模から質への転換迫られる
——2014年のドラッグストア市場は6兆0679億円と連続の成長を実現しましたが、伸び率は過去最低でした。成熟期を迎え、新たな方向性を示す時が来ています。
松本会長 人口が減少する中で小売業全体の競争が激化し、右肩上がりの成長が難しいことは確かだ。今後は規模の拡大以上に質的な進化が問われる。調剤業界は医療改革や後継者不足の影響で再編が始まっており、面分業がさらに進展する可能性が出てきた。ドラッグストアもこれを「かかりつけ薬局」を構築するチャンスと捉え、患者の便利性に応えたサービスの提供が求められる。
——薬剤師の合格率低下や薬学生の資質低下も気になります。
松本会長 先日のJACDS政治連盟のセミナーで東京薬科大学の今西信幸理事長が、偏差値30台の薬科大学が増えていること、また国家試験出願者の合格率が20%台であることを指摘していた。資格を取得できなかった学生のケアを含め、調剤助手いわゆるテクニシャン制度の検討も必要である。
同制度を導入すれば薬剤師の作業量が減り、処方箋枚数の上限も引き上げが可能となる。作業効率を高め、その上で技術料を下げれば医療費抑制にもなる。行政が求める在宅や24時間対応は、チェーンストアでないと難しい仕事であり、ドラッグストアが患者の受け皿として果たせる役割も増える。
——調剤業界の変化はコンビニやネット事業者も注視しています。
松本会長 そうした動きも協会は正面から受けとめ、制度設計の問題点とドラッグストアの優位性を、厚労省や政治家に訴えていく。

インバウンドで業績を底上げ
——業界全体が足踏みする中、マツモトキヨシHDの3月期も減収減益となりました。
松本会長 人口が多くアベノミクスの恩恵を受けやすかった首都圏の店舗は増税反動からの回復が早かったが、東北や北陸など地方の店舗が苦戦した。商品や販促施策の詰めが甘かったことは反省材料だ。
——その中でインバウンドという新たな需要の芽が出てきました。
松本会長 当社の都心店舗には、観光バスを横付けして大勢の外国人が押し寄せる。国内の顧客に迷惑をかけないよう、免税手続きを迅速におこなうシステムを導入したほか、主要店舗では通訳スタッフを配置しWiFiスポットも設置した。通訳スタッフには推奨販売もおこなわせている。これら取り組みは確実に業績の押し上げ効果となっている。旗艦の大阪・心斎橋の店舗などは、売上高が免税制度変更前の3倍となった。
3月にはインバウンド特化型1号店の「有楽町イトシアプラザ店」(東京・千代田区)を開設したが、目の前の既存店の業績を下げることなく好調に推移している。その後銀座8丁目と上野広小路店に開設した特化型も、まずますの滑り出しだ。中国の政情不安や円安、マーズなど感染症の流行を注視する必要はあるが、今後も費用対効果を見極めながら、インバウンド対策をすすめていきたい。
日刊ドラッグストア2015年7月14日号より抜粋