


「本搾り」・「ビターズ」が台頭

キリンビールは、中核ブランドの「氷結」に加え、個性の異なる「本搾り」、「ビターズ」の台頭によってRTDユーザーを拡大している。
高果汁を特徴とする「本搾り」は、販売数量が43カ月連続で前年をクリアしている。しかも今期累計は38%増と急拡大中だ。また、昨年6月に発売した「ビターズ」は、計画を上回る推移で2年目に入った。「ほろにがい」という新たな味覚特性で、アルコール分8%と4%のシリーズ商品を展開している。
「氷結」・「本搾り」・「ビターズ」は、アルコール度数やフレーバー展開で重複する部分があるものの、個性の違いで異なるポジショニングを確保している。
RTD市場における3ブランドの位置づけについて、マーケティング部RTDカテゴリー戦略担当ブランドマネージャーの井本亜香主査は次のように語っている。
「RTDの嗜好は多様化し、ブランドも増加した。市場は複雑になったように見えるが、飲用シーンで見ると日常的に楽しむものと、特別感・ご褒美感のあるものに大別できる。『氷結』は、日常的なシーンを代表するブランドだ。日常性の枠内でアルコール分6%を中心とするスタンダードと9%のストロングに分かれ、それぞれのニーズに対応している。一方、『本搾り』と『ビターズ』は、『氷結』にはないユニークさを備えることで、特別感・ご褒美感のある飲用シーンをとらえている。『本搾り』には果汁とお酒だけでつくるという明確なコンセプトがあり、『ビターズ』の味覚は、食中酒としてRTDの飲用機会を広げている」
「ビターズ」以前にも食中シーンの獲得を目指す商品を投入していた。しかしその商品では、甘くない、食事に合うといった特性を伝え切れなかった。
「甘くないRTDに対するニーズがあることは明らかだったので、『ビターズ』ではビターリキュールを使用したほろにがさや、大人の嗜好と同時にチューハイらしいシズル感を表現したパッケージなど、食中シーンの酒類として求められる要素を掘り下げた」(井本主査)
「ビターズ」で最も人気のフレーバーは〈ほろにがレモンライム〉となっている。5月に発売した〈エクストラビター〉は、ビターリキュールの量を2倍に増やした設計により、さらにビールに近い飲用シーンを獲得している。また、アルコール分を4%に抑えた「クワトロ」シリーズは、女性などの新規客層を取り込んでいる。
「アルコール分8%と4%のユーザーは、明確に分かれているわけではない。1人のユーザーが飲み分けをしている。これは『ビターズ』に限ったことではなく、RTDユーザーはブランド、フレーバー、アルコール度数を、気分やシーンによって飲み分ける」(同主査)
主力フレーバーをすみ分け

「氷結」は、夏場に実施した「100億本突破キャンペーン」をきっかけに、通年品の中でも主力フレーバーの〈シチリア産レモン〉が伸長している。「本搾り」は、〈グレープフルーツ〉や〈オレンジ〉など、高果汁チューハイの特徴を活かしたフレーバーが高い伸長率となっている。
「高果汁チューハイは競合ブランドの出現により、かえって『本搾り』の特徴が際立つようになった。『氷結』との違いもいっそう明確になり、すっきり飲みやすい『氷結』はレモン、高果汁の『本搾り』はグレープフルーツと、好調なフレーバーの違いにもブランドの特徴が表れている」(同)
「氷結」は今期、産地を限定した「いいね!ニッポンの果実。」をシリーズ化している。3月に第1弾として発売した〈福島産桃〉に続き、今月25日には〈山形産ラ・フランス〉を投入した。10月6日には〈長野産プルーン〉を発売する。
また、ストロングシリーズから9月15日、限定フレーバー「イタリアンマスカット」を発売する。男性ユーザーが多いストロングシリーズだが、柑橘系で構成する通年品に対し、限定品は甘いフレーバーを商品化するケースが多い。「高アルコールと甘いフレーバーの組み合わせは、意外なほど男性ユーザーに人気がある」(同)
「本搾り」は、限定品として果汁ブレンドシリーズを展開している。〈冬柑〉、〈夏柑〉に続き、9月1日には〈秋柑〉を発売する。秋商品はシークヮーサーを中心にレモンとオレンジ果汁を組み合わせている。
チャネル限定で商品価値を伝える

RTD市場の新たな領域を探る取り組みとして、チャネル限定のブランドにも個性的な商品を投入している。
4月に発売したイオングループ限定品「しゅわわ」は、ワインベースのRTDだ。ボトルワインの量や、アルコール度数の高さに購入を控える20〜30代女性をターゲットとしている。手軽に楽しめるよう容量は250ml、アルコール分は5%に設定した。
また、ローソン限定で8月に発売した「ルーミー ふるふるスムージー」は、容器を振って泡立たせてから飲むスタイルを提案する。アルコール分4%で、〈ピーチ&マンゴー〉、〈ブルーベリー&ラズベリー〉の2アイテムを揃える。働く女性のリラックスシーンに訴求する。
井本主査は、チャネル限定で取り組む商品開発のメリットについて、次のように語っている。
「商品によっては、全国・全チャネルで展開しても成果につながりにくい場合がある。ターゲットを絞り込み、チャネルを限定することで、ねらったユーザーに伝わりやすくなる。『しゅわわ』は、ワインのエントリー層を広げるための提案で、RTDユーザーというより、ワインに興味のある方を想定して開発した。この商品がRTDの売場に並んでも、チューハイの中に埋没して特性を活かせなかっただろう。『ルーミー』は、新たな食感・物性価値を提案するもので、やはりターゲットと販路を絞り込んだ前提のもと開発している」
ユーザーの流入が続くRTD市場は、今後も新たなジャンルを創出するチャンスが残されている。全国展開が前提のNBだけでなく、販路を限定する方法も合わせて潜在ニーズを掘り起こしていく。
週刊流通ジャーナル2015年8月31日号より抜粋