


価格500円台の輸入デイリーワイン市場で、数十万ケース単位のブランドをつくる気運が高まっている。従来、この価格帯に定番といえるブランドは少なく、より低価格の500円未満にもそのような商品は稀だった。アサヒビールが輸入するチリワイン「アルパカ」の急拡大は、デイリーワインのブランディングに新たな可能性を示した。バラエティは豊富でも知名度のある商品が少ないデイリーワインの中で、「アルパカ」はコストパフォーマンスが優れているだけでなく、名前が覚えやすく、店頭で見つけやすいボトルデザインとすることにより存在感を高めている。
探しやすく、見つけやすいことの価値

サンタ・ヘレナ社の「アルパカ」シリーズは、14年の実績が前年比2.5倍の43万ケースだった。15年は約4割増の60万ケースを計画していたが、8月までの累計は約3倍の57万ケースと既に前年実績を上回っている。年初に目標として掲げた輸入チリワインNo.1にとどまらず、輸入ワイン全体でも首位をねらえる販売ボリュームまで飛躍しそうだ。
マーケティング本部マーケティング第二部の福北耕一次長は、「3年前まで数万ケースの規模しかなかったブランドが、短期間で43万ケースまで拡大した。年初に掲げた60万ケースも保守的な計画ではないつもりだったが、勢いが止まらない。販路の広がりと高い回転率で見通しを大きく上回っている」という。
量販店の場合、「アルパカ」の実勢価格は税抜500円前後が一般的だ。日常的に親しみやすい価格ではあるが、400円前後の商品も多いなか、格別に安いわけではない。単純な価格メリットではなく、味わいとのバランスに優れたコストパフォーマンスがヒットの前提になっている。ただ、それだけでこれほどの伸長率を実現できたわけでもない。トライアルを促し、リピートにつなげるための工夫があった。
シリーズのボトルには、すべてアルパカのアイコンがデザインされている。これが店頭での印象を格段に高める。価格も手頃なので、まずはトライアルを獲得する。そして飲むことにより、コストパフォーマンスの高さを理解してもらう。「アルパカ」という簡潔なブランド名は記憶しやすく、もし忘れても、店頭で再びボトルを見れば思い出せる。思い出すことでリピート購入につながる。こうしたサイクルをつくり出すことに加え、ラインアップも増えており、販売数量は飛躍的な伸長を続ける。このボトルデザインは、サンタ・ヘレナ社と協議のうえ、日本仕様として開発したものだ。
「ワインの入門ブランドであるからには、興味はあっても詳しくはないというユーザーから選ばれることが重要と考えた。つまり、横文字だけでブランド名を表記しても、商品イメージは伝わらない。選ばれる理由にならない。名前とビジュアルを覚えてもらうにはどうしたらいいか、サンタ・ヘレナ社にこちらの要望を伝えた。ワインの伝統的なやり方からすれば、今のスタイルで商品化することには抵抗もあったようだ。当初は日本市場だけの対応ということだったが、予想外の成果を受け、展開エリアは他の国にも広がっている」(福北次長)
今秋、メルシャンやサントリーワインインターナショナルも、チリ産デイリーワインのラベルに動物のアイコンをデザインし、愛称のように覚えやすい名の新ブランドを立ち上げた。いずれも通年では数十万ケースの計画を立てる。デイリーワインはバラエティを展開する市場から、基幹ブランドの育成が重要な市場へとカテゴリー戦略の重点がシフトしつつある。
美味しさで差別化
「アルパカ」のコストパフォーマンスの高さは、何より急伸を続ける販売実績に裏打ちされている。ただ、次に挙げる要素を押さえていることも評価されるポイントになっている。産地がチリの中でもセントラル・バレーに特定できる点や、カベルネやメルロー、ソーヴィニヨン・ブランなど使用するブドウ品種を明確にしている点、さらにビンテージ(収穫年)を明記している点だ。多くの低価格ワインは、これら3点のうちいずれかが欠落しがちだ。
「800〜1000円の価格帯では一般的でも、500円前後で3つすべてを揃える商品は珍しい」(福北次長)
現在のラインアップは、赤2品、白2品、ロゼ1品の5アイテムとなっている。9月29日には〈スパークリング・プリュット〉を投入してカテゴリーの幅を広げる。実勢価格は1000円を切る見通しで、スパークリングワインの入門的なポジションを目指す。
「販路はまだ拡大の途上で、これを広げるだけでもさらなる伸長につながる。また、アイテムが増えたことで店頭では面展開が可能になり、いっそう目立つようになってきた。販売ボリュームは相当なレベルになったが、ワインはボリュームを打ち出すことが購買につながるカテゴリーではない。『誰かにすすめたくなる』ことをキャッチコピーに、おいしさを訴求していく」(同)
週刊流通ジャーナル2015年9月14日号より抜粋