チェーンストアは、以前から顧客の購買データを収集し、品揃えやインストアプロモーションの最適化に活用してきた。最近ではID-POSの利用も増え、購買履歴に基づく顧客セグメント別の分析も広がっている。一方、店外での顧客へのアプローチは、ITを十分に活かしているとは言い難い。最大のコミュニケーション手段であるチラシは、コンテンツの取り扱いも配布方法も対象を絞り込めない。
アドビ システムズの佐分利ユージン社長は、顧客の詳細な購買データとリアル店舗を持つチェーンストアこそ、デジタルマーケティングによる高い効果を期待できると指摘する。「購買の意思決定に影響する情報として、デジタル経由の比重はとても大きくなっている。これからの消費を担う世代を取り込むうえで、デジタルマーケティングは必須の手段になる」(佐分利社長)という。同社は、デジタル文書やクリエイティブ関連のソリューション企業として高いシェアを持つだけでなく、08年から本格化したマーケティング事業が急成長を続けている。
リアル店舗の顧客データを活用

――以下は佐分利社長の発言要旨である。
日本はデジタルマーケティングの成熟度では米国に劣るかもしれないが、ほとんどのチェーンがポイントプログラムを導入しており、取得できる顧客情報の量は米国にも勝っている。既に環境は整っているので、しっかりとしたデジタルマーケティングを取り入れれば、店舗への誘導で高い効果を得られるはずだ。
デジタルを使ったアプローチで、メールキャンペーンを展開しているチェーンは多い。ただ、単にメールを送っても効果はさほど期待できない。購買履歴や位置情報とつなげるなど、その人にとって魅力的なものにする工夫が必要だ。
メーカーは、商品情報の提供に関してデジタル分野でも力を入れているが、よりニュートラルな立場である小売からの情報の方が消費者は信頼するだろう。Eコマースの事業者は、ウェブサイトに口コミをもとにした評価制度を組み込むことで成功しているし、リアル店舗を構えるチェーンでも、専門店の中にはウェブ経由の情報提供が充実しているところも多い。
デジタルマーケティングは、店の外にいる顧客の来店を促す手段として有効だ。効果を測定・可視化しやすいので、取り組みの修正も速やかにできる。
既存顧客に対しては、その人に合わせた適切なアプローチによって売上をさらに伸ばすチャンスが生まれる。購買履歴が分かっているなら、特売情報の中でもその人に合った商品に絞り込んだ方が喜ばれるだろう。また、新規顧客を取り込むために全く新しい方法が可能になる。既存の広告媒体はピンポイントでアプローチできないし、コストもかかる。デジタルデバイスが情報取得の中心になった現在、それを使って何ができるかを考えるべきだ。
日本の消費者は、店舗で得た情報をもとに買物の意思決定をする傾向が強い。店舗を持っていれば、顧客が足を運んだ時点で一定のコミットを得たも同然だ。リアル店舗のアドバンデージは高い。ただ、今の顧客の5割以上は、ネットでも評価を確認したうえで決めている。意志決定に影響を及ぼす情報のあり方が変わってきている。だからこそ店舗の対応と同様に、デジタルに力を入れる必要がある。ネットを通じて顧客が気持ちよく情報を得られることが、購買の後押しになる。
週刊流通ジャーナル2016年1月1日号より抜粋