
日本リノ・アグリはこのほど、千葉県市川市で植物工場「おひさま耕房」の本格稼働を始めた。同社は東急不動産から取得した212ヘクタールの農地・山林を活用し、多機能型の農業タウンとして再生を目指している。
東急不動産は住宅開発を目的に1960年代後半から市川市内で土地の取得を進めたが、90年代のバブル崩壊以降、プロジェクトは中断した。2012年に農業地域として再開発する方針に転換し、14年に地元の造園業社・生光園などとの合弁で日本リノ・アグリを設立した。出資比率は生光園が50%、東急不動産が30%となっている。
日本リノ・アグリは耕作放棄地の再生や、山林の有効活用を通じて地域創生のモデルづくりに取り組んでいる。15年度までに約17ヘクタールの耕作放棄地を再生したほか、山林に約700世帯分の電力を賄うソーラー発電施設を稼働させている。このほど本格稼働した植物工場は、一連の取り組みにおける新たなアプローチで、先進技術を活用した生産性の高い農業を追求する。

植物工場は、7棟の太陽光利用型ハウスで構成する。延床面積は694坪で、鉄骨造の骨組みを耐久性に優れたシートで覆い、生産効率を高めるため4段の多段式栽培棚を導入している。光合成に必要な照度を確保するため、天井と地面のシートは耐久性だけでなく、光の拡散性能を特徴とする。
栽培するのはレタス類や水菜、小松菜など20種類以上の葉物野菜で、日量3000株の生産が可能という。作物に供給する養液は、薄膜方式で量を抑えるだけでなく、循環システムで排水を出さない設計になっている。養液の温度コントロールなどで吸収の効率を高めるため、養液の濃度は下げている。一般的に生産効率のために養液の濃度を上げると、野菜のえぐみが増すという。低い濃度で生産効率を高めることが、同施設のポイントとなっている。

高品質ブランドとして育成
ハウス内の気温は冬場で最低12℃、夏場は最高35℃を目処に、季節の影響をコントロールする仕組みを備えている。モニタリングの機器を設置し、天窓や遮光カーテンの開閉は遠隔で操作できるほか、必要に応じて暖房・空冷を使用する。
収穫した作物は、根付きのまま鮮度を保つ高機能フィルムでパッケージングして出荷する。根付きには栄養素の減少を防ぐ効果もある。水耕栽培のクリーンさと、鮮度・栄養に優れた付加価値品としてブランディングしていく。また、棚ごとに出荷の状況を記録しているため、トレーサビリティを構築できる点も工場野菜ならではのメリットだ。
本格稼働に先駆け、経済産業省の補助事業としてシンガポールに出荷している。2月下旬から3月中旬にかけ、現地の伊勢丹スコッツ店で販促イベントを開催した。今後も日本産の付加価値ブランドとしてアジア市場の開拓を目指す。
一方、国内マーケットにおいては高質SMなどでの展開や、市原市周辺の店舗で地元の野菜として販路を広げていく方針だ。

週刊流通ジャーナル2016年4月18日号より